「ん?さっきの商人さんじゃないか。商売は上手く言ったかい?」
泊まるだけの稼ぎがあったかと聞きたいのだろう。
生憎商売ができても金銭は手に入らないのだが。「そのことなんですが、やはり薬での支払いはできませんか?」
「あ、いやさっきは悪かったな。もちろん構わないよ。貰った薬の効き目も良かったしな。とりあえずそれで1泊分にしておくよ。追加はどうする?と言ってもこの村に長居するほど見るものもないと思うけどな」宿屋の主人はあっさりと前言を撤回した。その上先に渡した薬も代金に含めてくれるという。やはりスキルの影響があったということだろう。
何にしろこれで野宿は避けられそうだ。「そうですね。道具屋と雑貨屋は今日回ったし、次はロンデールに行ってみようかと思っているのですが」
「ロンデールか。まぁ、ここから次に向かうならそこか南のハイン村のどっちかだろうな」南にも村があるのかそっちの情報も聞いておきたいな。
「とりあえず1泊で。あと良ければロンデールやハイン村のことについて教えて貰えませんか?」
「あぁ、良いぜ。ロンデールはこの辺だと大きめの町だな。近くにダンジョンの入り口があるから冒険者が結構多い。ダンジョン産のアイテムも出回るから商人ギルドもあるし商店も多いな。」ダンジョン。魔物が巣食う洞窟や遺跡のことだったか。現実味がないがやはりそういうものがあるんだな。なるべく近寄りたくないが。
商人ギルドには早めに行ってできるなら加入しておきたいな。知識によるとギルドカードは身分証にもなるようだし、横の繋がりを得られるのも重要だ。あとギルド発行の仕事を受けられたりもするんだっけ。・・・あれ?報酬って当然現金だよな?俺の場合どうなるんだろう? まぁ、そこも試してみれば分かるか。「ハイン村は大きな牧場があるのが特徴でな。ホワイトブルやフラワーシープなんかの牧畜をやってる。小さいが冒険者ギルドもあるぞ」
ホワイトブルは草食で大きめの体をしている。肉は部位ごとに触感や味が異なりどれも美味しいらしい。
メスのホワイトカウの方はミルクが取れてそちらも美味しいらしい。 フラワーシープは花のように様々な色の体毛を持つ動物で貴族のドレスなどの材料として重宝されているらしい。 肉やミルクは日持ちが厳しそうだが毛糸なら取引に使えそうだな。「ハイン村には商人ギルドはないんですか?」
「ないな。商人ギルドがあるのは基本的に取引が盛んな大きな町くらいだよ」 「なるほど。ちなみにロンデールとハインは徒歩だとどれくらい掛かるでしょうか?」 「そうだな・・・ハインは朝から出れば夕方くらいには着く。ロンデールは2日くらいかかるな。」ロンデールは2日か。徒歩で行けるなら近い方か。野宿自体は慣れているが、何が襲ってくるか分からないのが不安だな。
ハインは思ったより近いが、まずはやはり商人ギルドに行ってみたい。 行くとしてもロンデールの後かな。「っと、そろそろ夜になるが夕食はどうする?ちょうどさっき話したホワイトブルのシチューがあるぞ」
「おぉ、それは是非!」 と、情報料も含めて少し色を付けた量の薬をまた選んで貰い支払いを済ませる。 「あいよ。部屋は2階の手前の部屋を使ってくれ」 「分かりました」少しして主人がパンとシチューを持ってきてくれた。
パンは少し硬かったがシチューに浸すとちょうど良いくらいになる。シチューも肉がしっかり入っていてボリュームも味も満足できるものだった。 確かに美味い。他の部位もどんな味なのか気になるな。 食事を終えて、2階に上がる。 部屋は広くはなく小さめのテーブルとイス、後はベッドが置いてあるくらいだった。とはいえ今日はもう寝るくらいなので問題はない。 濡れタオルで軽く体だけ拭いて早めに休むことにした。(スキル説明を見た時はどうなることかと思ったけど、レベルも1つ上がってなんとかやっていけそうにはなったな。
そういえば敵と戦ったりしてないのに上がったということは、このスキルは取引の量や回数で上がる認識で良いのだろうか。雑貨屋での取引直後に上がったからこの認識であっているとは思うが。 好感度は・・・よく分からないな。そもそも店を構えている商人でもないと大抵は一期一会の相手だし、よほどのことがなければ好感度を上げるのは難しいだろう。まぁ、取引自体はできているし今は気にしなくていいか)そんなことをぼんやり考えている内にその日はいつの間にか眠りについていた。
次の日、朝起きて出発の準備をしていると、窓の外から少し賑やかな声が聞こえた。見ると馬車を引いた一団が来ているようだ。 周りの人間は装いからすると護衛だろうか。もしロンデールに戻るのであれば護衛をお願いできるかもしれない。 そう思い立つと早速交渉に行くことにした。 1階に降りるとちょうどその一団が食堂に入ってくるところだった。「すみません。いつものを3人分お願いできますか」
「あいよ」朝食を取りに来たようだ。ちょうどいいな。相席をお願いしてみるか。
「おはよう。悪いが、俺にも同じものを頼めますか」
「あぁ、おはよう。同じのでいいんだな。分かった」そういうと宿屋の主人は戻っていった。
「おはようございます。良ければ相席よろしいでしょうか?」
「おはようございます。この宿にお客さんとは珍しいですな。構いませんよ。食事は多い方が楽しいですからな」 「良かった。ありがとうございます。俺は旅商人をしているアキツグと申します。もしかしてそちらも?」この世界では貴族以外は家名を持たないようなので姓は伏せることにした。
「えぇ、商人のハロルドです。私はロンデールに店を構えているので旅商人ではありませんが。こちらの二人は私が護衛をお願いしているミルドさんとエリネアさんです」
「ミルドです。よろしく」 「エリネアです」ロンデールの商人か。歳は20代後半くらいだろうか、少し気が弱そうだが、物腰が柔らかい。もしかして例の木彫り細工を仕入れに来ている人だろうか?
ミルドさんは20代前半くらいかな?身軽そうな旅装束だ。背中の両側に剣の柄の様なものが見える。双剣使いかもしれない。 エリネアさんの方は……フードを被っていて表情が読みづらいが、こちらも20代前半くらいだろうか、弓を背負っていて、腰には短剣を装備している。 護衛の二人には少し警戒されているようだ。まぁ、突然他人が相席を頼んだりすれば無理もないか。「おぉ、その若さでもう自分の店をお持ちとは素晴らしい。今回はどちらまで行かれる予定なんですか?」
「いえいえ偶々良い商いができただけの若輩者ですよ。目的地はここです。実は雑貨屋さんで扱っている木彫り細工が見事でしてね。定期的に買い付けにきているのですよ」 「あぁ、そうでしたか。確かにあれは見事なものでした。雑貨屋の店主に聞いたのですが、家具のミニチュアをよく買われているとか」 「えぇ、ご贔屓にして頂いている貴族様が気に入られてましてな。最初はそれ以外も含め専属契約を結べないか交渉してみたのですが、趣味でやっているものだしあまり目立ちたくないと断られてしまいましてな」ハロルドさんは苦笑いをしながらそう答えた。
なるほど。必要なものだけ購入しているのも店主の機嫌を損ねないためか。こちらとしては助かったな。「そうでしたか。分かりますよ、あれだけのものですから販路さえ開拓できれば売れるのは間違いないでしょうね」
「いやぁ、本当に。とはいえ無理強いもできませんからね。ああいうものは作り手の感性が大切ですから。強制して質が落ちては元も子もないですし」 「確かに。ところで、買い付けが終わったらそのままロンデールに戻られるのですか?」話が盛り上がってきたところでそろそろ本題を切り出すことにした。
「えぇ、町で仕入れた薬や日用品も雑貨屋さんに卸してましてな。その取引が終われば戻る予定です」
「なるほど。実は俺もこれからロンデールに向かおうとしていたところで、もし良ければご一緒させて貰うことはできないでしょうか? もちろんタダでとは言いません。」そう言って、ハロルドさんには宝石類を護衛の二人には傷薬や治療薬などを提示する。
「契約してない同行者が増えるのは護衛の方にとっても負担でしょうし、ご希望の品があればそれを対価にお願いしたい」
「ふぅむ、そうですな。私は構いませんが、ミルドさんどうですか?」 「・・・ハロルドさんが許可するのであれば問題ありません。敵意があるようには見えませんし。エリネアも構わないな?」 「えぇ」よし、交渉成立のようだ。ロンデールの商人と繋がりが持てたのもありがたい。道すがら町のことや商人ギルドについても聞いてみよう。
「ありがとうございます。では、俺も部屋に戻って準備をしてきます。村の入り口で合流で良いでしょうか?」
「えぇ、そうしましょう。それではまた後程」そうして一旦別れて部屋に戻る。
(護衛の二人はほとんど話さなかったな。ミルドさんとエリネアさんって言ったっけ。できれば二人とも仲良くなっておきたいが、まだどんな人物かよく分からないしな)
そう考えながら荷物を纏め終えると、宿の主人に礼を告げて合流場所の村の入り口に向かうことにした。
昼食を終えて少しゆっくりした後は、再び街中を適当に散策していた。 すると町の一角に市場のような場所があった。 近くの人に尋ねてみると、ここはフリーマーケットとして開放されている広場で誰でも自由に取引ができるようになっているようだ。冷やかしや珍品目当てなど目的は様々だが、観光客も多く結構な人で賑わっていた。 商人としては、こんな光景を見てしまうとどうしても気になってしまう。 一通り見て回ったところで俺は二人に断りを入れて、自分も露店を開くことにした。「せっかくの骨休めでしたのに。でも、やっぱりアキツグさんはそういう姿が似合いますね」 『最近は色々あったけれど、やっぱり根は商人ってことよね』 「そ、そうか?まぁなんだかんだで歴は長いからな。二人は気にせず楽しんできてくれ」 「分かりました。ロシェさん行きましょうか」 『えぇ。アキツグ、さっきも言ったけど一応気を付けてね』 「あぁ、分かってるよ。そっちもな」取引を終えて宿に戻ろうとしたところで、違和感に気づいた。 ロシェの気配がしばらく前からずっと同じところに留まっているのだ。 少しくらいなら景色を眺めていたり、軽食を摂っていたりということもあるだろうが、そう考えるには時間が経ち過ぎていた。 気になった俺はロシェの気配の方へ向かうことにした。 気配を追っていくと辿り着いたのは建物の隙間にできた小道の様な場所だった。 ロシェの気配は、未だにその十字路になっているあたりに留まっている。近づいてもこちらに気づく様子もなく、近くにカサネさんの姿もなかった。(おいおい。嘘だろ?あの二人も警戒はしていたはずなのに、一体何があったんだ?)一応俺は警戒しながらロシェに近づいて行った。当たりに人の気配はなかったが、二人に何かをした存在がまだ隠れている可能性もあったからだ。 しかし、そんな警戒も空しく何事もなくロシェの側まで行くことができた。 ロシェは姿隠状態のまま気を失っているようだった。揺り起こすと少しして目を覚ました。『う、くっ、ここ・・・は?』 「大丈夫か?何があったんだ?」
「コゲンジさん、お久しぶりですね」 「えぇ本当に、エレンジアである日から急に姿を見かけなくなったので、心配していたんですよ。今まではどちらに?」 「レインディア大陸の方に渡っていました。冒険者ですから、他の街に移るのも別に珍しいことではないですよ」 「それは…そうかもしれませんが、友人が急に居なくなったら寂しいじゃないですか。せめて一言教えてくだされば良かったのに」 「それはどうもすみません。少し急いでいたものですから」パッと見る限りでは知り合いが再会の会話を交わしているだけにも見えるが、 二人の温度差には明らかに違いがあった。カサネさんの口調も普段とは異なり硬いものだ。恐らくはこの人物が以前にカサネさんが言っていた面倒な人なのだろう。相手の様子からもこのままだと面倒な展開になりそうだ。ここは割って入るべきだろう。 俺は灯り石を購入すると、敢えて今の会話に気づいていなかった素振りでカサネさんに声を掛けた。「カサネさんお待たせ。石も良いのが買えたしそろそろ昼食にでもいこうか」 「あ、はい。コゲンジさんすみません、連れも戻ってきたので私はこれで」 「えっ!?ちょ、ちょっと待って下さい。連れってこの人がですか?カサネさん、ずっとソロで活動していて特定のパーティには参加していなかったのに」前までがそうだったとして、何でパーティを組んだくらいで問い質されなきゃならいないのだろうか。そんなことまで知っているのも含めて本当に面倒そうな人だ。「今まではパーティを組みたいと思う人が居なかっただけですよ。連れを待たせるのは悪いのでこれで失礼します。行きましょう、アキツグさん」そういうとカサネさんは俺の腕を掴んでさっさと歩きだした。腕を引かれた俺もその後に続いたが、振り返る前に一瞬目が合った彼は俺のことを憎々しげに睨みつけていた。 しばらく歩いて近くにコゲンジの気配がないことを確認した辺りで、カサネさんが一息ついてこちらに謝罪してきた。「さっきはすみませんでした。まさかこんなところで会うなんて。あの人が以前話していたコゲンジさんです」 「やっぱりか。知り合いみたいなのにあんな風に接してたか
カランダルさんに紹介して貰った宿屋で部屋を取った俺達は、さっそく温泉に入りに来た。観光地だけあってペット同伴で来る人も多いらしく、専用のエリアも用意されているため、ロシェも問題なく入れるようだった。 なおロシェにはカサネさんと一緒に女湯の方に行って貰っている。気にする必要もないとは思うが、まぁ気分的なものだ。 体を洗って温泉に入ると、温泉の温度もちょうどよく、蓄積された疲れがゆっくりと温泉に溶けていく様だった。「あ~やっぱりこれだよなぁ。景色も良いしカランダルさんがお勧めしてくれたのも納得だな」紹介された宿は街の端にあり、温泉からは周囲の山々が見渡せるようになっていた。温泉もいくつか種類があり、泉質も異なっているようだった。 前日の件で睡眠時間が少なかったのもあり、うっかり湯の中で寝てしまいそうになったが、何とか耐えて部屋まで戻ってきた。 少し休んでいると仲居さんが夕食を持ってきてくれた。それらも豪勢でどれも美味しいものだった。ただ、こんなところでもライアン果樹園の果物が出てくるのは流石というべきか。きっと提携しているということなのだろう。 そして、驚いたことに寝具に布団一式まで用意されていた。ここにも前の世界の住人が何か知ら関わっていたのかもしれないが、睡魔に負けた俺はそこまで考えることもなくその日は早々に眠りについたのだった。翌日、俺達は三人で温泉街を見て回ることにした。 昨日カランダルさんに聞いた話によると、ヤミネラさんと属性付与とカランダルさんの特性付与については素材さえ揃っていれば、付与自体はそれほど時間の掛かるものではないらしく、数日もあれば終わるだろうとの話だった。 なので、それまではこの温泉郷で骨休めというわけである。やはり観光地だけあって町並みは美しく、街の中央には温泉饅頭や温泉卵、湯豆腐など温泉街ならではといった食べ物や土産物屋が立ち並んでいる。各温泉を巡るスタンプラリーまであるようだ。街の奥は山道まで続いており、山中には秘湯のようなものまであるらしい。 一応冒険者ギルドや商人ギルド、武具や道具屋などもあるのだが、そのような店舗は街の一角に目立たない感じで存在していた。「なんか今まで
「ま、まさか?!こ、これも黒真鉄だ。あれだけ探しても見つからなかったというのに・・・あなた達は一体?」 「えぇっと、まぁ色々ありまして。ともかくこれがあれば刀を鍛えることができるんですよね?」 「それはそうなんですが・・・もともと自分で見つけるつもりでしたので、あなた方からこれを買い取れるような資産を私は持ち合わせていないのです」言われて気づいた。正直俺から見ればあの本を見つけた時の副産物程度の認識だったのだが、希少品であるならば相応の価値で取引するのが当然ではある。 とはいえ、ハクシンさん、ヤミネラさんと繋がれてきたバトンの結果が完成しませんでしたとなって欲しくはない。さて、どうしたものか。。 カサネさんの方を見ても同じように困ったような視線が返ってくる。「それじゃぁ、支払いは一旦保留にして、刀ができてから考えるというのは?」 「・・・それは借金ということかい?確かに現状それを譲り受ける方法としてはそれくらいしかないかもしれない。しかし、返せる当てもないのに借金をするのはちょっとね。ヤミネラが信じた君達を信じないわけではないけれど」う~ん。まぁカランダルさんの言うことももっともだ。俺だって逆の立場だったら躊躇するだろう。でも、これもダメとなるともうタダで譲るくらいしか・・・「一つ確認したいのだけれど、そのような提案をしてくれるということは君達にとっては黒真鉄は条件次第で渡しても良いものという認識であっているかい?」 「そうですね。今のところ使い道もありませんし。カサネさんも良いよな?」 「はい。アキツグさんと同じですね」 「そうか・・・であれば、一つ提案があるんだけどそのためには私の秘密も話さなければならない。だから、これから話すことは口外しないと約束して欲しい」問われて俺とカサネさんは顔を見合わせた。この状況を変えられるのであれば是非聞きたいところである。二人でカランダルさんに頷いた。「分かりました。口外しないことを約束します」 「ありがとう。これは私の仕事にも関わることなんだけどね。ヤミネラが属性付与師なのは知っているだろう?それじゃ、ヤミネラが属性付与した刀に私は何をす
近くで野営をしていたこともあり、午前中にはバーセルドに着くことができた。 バーセルドは泉源都市とも呼ばれており、文字通り、街の内外を問わずあちこちに源泉が存在していた。そのためまさに温泉郷といった感じで、様々な泉質を売りにした温泉施設や温泉付きの宿泊施設が立ち並んでおり、街中には無料の足湯場まで作られている。フォレストサイドが近いためだろう、建物は木造建築のものが多くそれがまた和風の雰囲気を漂わせていた。「これはまた・・・なんていうか、初めてきたのになんか懐かしさを感じるな」 「ですよね。私も初めて来た時は同じような感想を持ちました」 『今まで立ち寄った街とはまた雰囲気が違うわね』思わずそのまま近くの温泉に入りに行きたくなったが、そこはぐっと我慢してまずは目的を果たすことにする。代わりに足湯場でのんびりしている人達に混ざりつつ、カランダルさんの鍛冶屋について聞き込みをすると目的の場所は簡単に教えて貰うことができた。 礼を言ってその人達と別れ、教えられた鍛冶屋の前までやってくると一人の男性が店の前で掃除をしていた。俺達が近づくとその男性もこちらに気づいた。「こんにちは。こちらにカランダルさんはいらっしゃいますか?」 「カランダルは私ですが。何か御用でしょうか?」 「ヤミネラさんから手紙と伝言を預かってきました」俺がそういうと、カランダルさんの表情が少し真剣なものに変わった気がした。「なるほど。こんな温泉街で私の店を訪れる人は珍しいので、どういった御用かと思ったのですが。とりあえず中へどうぞ」カランダルさんはそう言うと店の扉を開けて俺達を中へ招き入れた。 店の中はきれいに整理整頓されていた。数日前に見たヤミネラさんの店はもっとごちゃごちゃしていて雑多に物が置かれていたので、なおさら印象深かった。 それに店主のカランダルさんも口では言い表せないのだが、なんだか不思議な雰囲気を持った人物に見えた。「綺麗なお店ですね」 「そうですか?・・・あぁ、ヤミネラの店を見たんですね。あの子は片付けが苦手ですからねぇ。逆に私は片付いていないと落ち着かないもので、あの子とはよく言い合い
テントにカサネさんを寝かせてから少し先ほどのことを思い返してみたが、 やはり何も分かりそうになかった。あの魔法についてはカサネさんが起きたら 聞いてみるしかないだろう。 一先ずはそう結論付けて朝食の準備をしていると、少しして二人が起きてきた。「二人ともおはよう。カサネさんは大丈夫か?」 『おはよう。あのあと何かあったの?』 「おはよう・・・ございます。っ!大丈夫とは言い難いですね。頭痛が酷いです。 魔法を発動させた以降の記憶がないんですけど、あのあとどうなりました?」やっぱり、魔法を発動させた瞬間に気を失っていたのか。 結果論になってしまうが、あの時無理にでも止めるべきだったな。「魔法は発動していたよ。突き出した手の先にあった竹の間に黒い球が現れて、次の瞬間には黒い球ごとそこにあった幹も消失してた」 「そうですか、、一応発動はしたんですね。制御しきれずに気を失ってしまったみたいですけど、大惨事にはならなかったみたいで良かったです」 「危険な魔法かもしれないと分かっていたんだし、万全の状態で使ったほうが良いんじゃないかと止めるべきだったよ。ごめん」謝る俺に対して、カサネさんは被りを振って返してきた。「いえ、精神状態もそうですけど、あの時の私はちょっと忠告されたくらいでは止まれなかったと思います。だから、あの結果は自業自得です。アキツグさんが謝ることじゃないですよ。こちらこそすみませんでした」そういってカサネさんは深々と頭を下げた。だいぶ参っている様子だ。「いやまぁ、あんな特別な魔法を覚えたら誰だって興奮するだろうし、早く 試してみたくなっても仕方ないさ。今回は大事にはならなかったわけだし、 お互い次回から気を付けるようにしよう」 「はい。ありがとうございます」 『反省して次回に行かせるなら良いんじゃない?その時寝ていた私は正直何とも言いづらいけれど』その後三人で朝食を取っている間もカサネさんは少し気落ちしていたが、 気を取り直したのか食べ終わる頃には一先ずいつもの様子に戻っていた。 落ち着